2022年 

「異常事態下でのナノ構造ポリマー研究協会」
このところTV,新聞その他メデイアを見ると、2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵略とロシア軍による大規模な戦争犯罪の状況、ロシアに対する経済制裁、それによる原油、天然ガス価格の高騰、悪性インフレ及び2019年12月から中国の武漢で始まったCOVID-19のパンデミック、それによる航空、観光、飲食、ホテルその他多くの産業への大打撃など異常事態が続いている。2022年4月3日現在では、日本は、コロナ禍の第6波のピークは過ぎたが、リバウンドまたは第7波が始まったようである。全世界では、約5億人が感染し、死者累計は約620万人に達している。毎日約100万人が感染し、約5000人が亡くなっている。これに加えて半導体不足が重なり、自動車産業も大きな影響を受けている。これらの異常事態はかなりの程度で本協会や会員、会員企業に影響を及ぼしている。
ウクライナ情勢に関しては、4月2日の運営委員会で本協会から人道支援の寄付を行うことが決まった。それぞれについて書き出せばキリが無いが我々に関係する分野に絞れば、以下のようになるであろう。
2020年10月に管内閣が宣言した、「2050年カーボンニュートラルの実現」。
2020年12月に政府から発表された、「2030年後半からのガソリン車販売禁止」。
マイクロプラスチック問題。
2022年4月1日から施行された「プラスチック資源循環法」。
他にも想定外や、とんでもないことが次々起きている。詳細は次節に述べるが、先ず本協会について復習しておきたい。NPOナノ構造ポリマー研究協会は、伊澤博士らにより2002年7月に発足したので2022年は20周年となる。コロナ禍が収まれば、対面で20周年記念会を予定しているが2022年度内に実現可能となることを期待している。筆者は、2012年4月に本協会の代表理事を仰せつかったので11年目となる。出来るだけ早く次期代表に譲りたいと願っている。本研究協会の目的は、「ポリマー材料と加工技術の実用化を通して経済や社会に大きな影響をもたらしているナノ構造ポリマー技術の研究の経緯と実現への道筋とを、広く社会に対して情報発信しつつ共有化する。」である。この目的を実現するために、ナノ構造ポリマー研究会(2001年4月~)、同公開研究会(2002年8月~)、TPE技術研究会(2006年12月~)、同公開講演会(2006年11月~)、ナノ構造ポリマー交流会(2002年~)、マイクロ・ナノ加工研究会(2014年3月~)、同公開講演会(2013年12月~)等を行っている。更に2020年8月からは、COVID-19対策としてウェッブによるセミナー(Webinar)を開始した。現在全ての講演会、研究会、委員会などはコロナ禍のためにオンラインで行っている。詳細は、 https://ransp.jp/index.html/ を参照されたい。本協会は、皆様のご協力で順調に発展し、当初の目的を遂げつつあると確信している。2021年度の決算もお陰さまで健全財政と言える水準にある。

 ところで、協会外に目を配ると、最近は想定外を越えてマサカ、トンデモナイとも言うべき事象が頻発している。我々に大なり小なり関係することをほぼ時系列で例示すると、
2018年1月から始ったトランプ大統領がしかけた米中対立が2021年1月にバイデン
大統領に替っても依然として続いている。むしろ対中包囲網に発展し、日本企業への影響が深刻化している。
2)2021年4月23日:ホンダが世界で販売する新車全てを2040年には、EVかFCVとする目標を発表。
3)5月10日:経団連会長に住友化学の十倉正和氏就任(6月1日から)
4)5月15日:中国が無人火星探査機着陸成功。
5)5月31日:中国が一人っ子政策を緩和し、3人まで出産可に変更。
6)7月2日:三菱電機検査不正問題で、杉山社長引責辞任。
7)7月23日~8月8日:1年遅れの東京オリンピックが無観客で開催。
8)8月20日:みずほ銀行で再びシステム障害(この半年で5回目、この後も数回)。
9)8月24日~9月5日:1年遅れの東京パラリンピックが無観客で開催。
10)8月31日:米軍アフガニスタンから敗退。20年に及ぶ米国史上最長の戦争。
11)9月7日:トヨタ自動車が2030年までに車載電池増産などに1.5兆円投入発表。
12)9月29日:岸田文雄氏が自民党新総裁就任。
13)10月5日:気候変動の予測法開発で真鍋淑郎教授(プリンストン大、米国籍)がノーベル物理学賞受賞決定。
14)10月21日:ショパン国際ピアノコンクールで反田恭平氏(2位)、小林愛美嬢(4位)が入賞。
15)11月14日:COP26閉幕。産業革命前からの気温上昇を1.5度に押さえるための追求で合意。
16)11月19日:新型コロナの変異株対応で政府は、全世界からの外国人新規入国停止発表。鎖国状態。その後は徐々に緩和されつつある。
17)12月7日:バイデン政権が北京冬季オリンピックの「外交ボイコット」表明。
18)12月8日:ドイツのメルケル首相引退。
19)12月14日:トヨタがEVの世界販売目標を2030年で350万台に引き上げ。
20)12月15日:「国の基幹データの書き換え」発覚。
21)12月22日:オミクロン株の市中感染が初確認。以後急拡大で第6波となる。一方
日立アスモの検査不正も発覚。
22)12月23日:三菱電機の新たな検査不正発覚。
2022年
23)1月22日:国交省統計不正処分。
24)蔓延防止法、東京では、1月21日から延長、延長で3月21日迄。ピークは2月2日で新規感染者数は、21576人。1月末から3回目のワクチン接種開始。
25)2月4日~20日、3月4日~13日:北京冬期オリンピック及びパラリンピックが
関係者のみで開催。パラリンピックはロシア選手排除。
26)2月24日からロシアのウクライナ侵略開始。オリンピック期間中の戦争禁止という
国際常識を無視。
27)3月1日:サイバー攻撃により、トヨタ全工場停止。同様事象は、ブリヂストンアメリカ、デンソー、森永などでもこの時期に起きていた。
28)3月16日:福島沖地震(M7.4)。東北新幹線の脱線、1000カ所以上の損傷。
全線開通見込みは、4月20日。
29)4月1日:プラスチック資源循環法施行。
 
尚、現時点(2022年4月3日)におけるCOVID-19の感染状況を見ると、全世界での感染者数は、約5億、死者数は約620万である。米国は、それぞれ、約8000万、約99万、ブラジルは、約3000万、約66万、英国が約2150万、約17万、フランスが約2600万、約14万、ドイツが約2200万、約13万,ロシアは、約1800万、約36万である。日本は、それぞれ約666万、約2万8千であり、去年より3倍近く増えている。感染源の中国は、COVID-19のコントロールに成功したとされていたが、冬期オリンピックを境にして急増し、上海までロックダウン状態となってしまった。ワクチン接種が行われているが未だ油断大敵であり、コロナ禍と経済活動をどう共存させるかは、重い課題になっている。

個人的な話で言うと、2020年2月中旬以降国内外の出張は殆どが延期か中止となり、Zoomによるオンライン会議とテレワークになってしまった。COVID-19禍とロシアのウクライナ侵略のため今までのグローバル化が本当に分断されてしまった。これは個人レベルだけでなく産業レベルでも起きておりこの影響は正に深刻である。東日本大震災やリ―マンショックを遥かに凌ぐインパクトである。特にロシアが仕掛けた戦争による原油、天然ガスの高騰は深刻でガソリンの高騰、悪性インフレが起きている。戦争が長引くほど影響は酷くなるであろう。更にウクライナからの難民が400万人以上となり経済的、社会的不安定要因ともなるであろう。また経済制裁により、トヨタ、日産、ブリヂストン、横浜ゴム、住友ゴムなどのロシア工場や事業所が停止状態になっている。本協会の会員企業にも影響が及びだした。

ポリマー関係では、2022年4月1日からJSRのエラストマー部門がENEOSに売却され、活動を始めた。また、2021年9月には、住友化学が千葉工場のEPDM製造設備を休止し、2023年3月末で販売終了を宣言、ブリヂストンは、防振ゴム事業と化成品ソリューション事業を売却と発表した。一方、現在は、EPDM,フッ素ゴム、シリコーンゴムの世界的な需給が逼迫し、異常な高騰中という。これからも事業の再編、売却、予期せぬ高騰などが起きるであろう。他方、バイオプラスチック、リサイクルなどの研究開発が急速に進んでいる。

科学技術に絞って見ると、2016年4月から2021年3月まで国の第5期科学技術基本計画が修了した。主眼は、Society 5.0で実現の鍵は、IoT, ビッグデータ、人工知能、ロボット、オープンイノベーション等であった。これは材料面で見ると、例えば、「軽くて強靭な材料」となる。一つの素材で実現するのは困難なので、複合材料やナノコンポジット、ポリマーアロイなどナノ構造ポリマーが主役である。実際に内閣府の主導で始まったImPACTの中の「しなやかタフポリマー」プロジェクト(プロジェクトリーダーは、伊藤耕三東大教授)は、2014年9月~2019年3月の4年半実施され、産学官連携で、基礎研究の他、「薄くてタフな電解質膜、薄膜高強度セパレータ、硬くしなやかな車体構造材、より薄くて軽いタイヤ、強靭な透明アクリル窓」等が開発され、コンセプトカー(ItoP)迄制作公開された。筆者や副代表理事の臼杵氏はアドバイザーを務めたのでこれら新素材の開発には、正にナノ構造ポリマーが大活躍しているのを知っている。今後も本協会の分野に大きな期待が寄せられている。COVID-19関連では、感染防止用のマスク、ゴーグル、消毒液キット、医療用フェイスシールド、アクリル板、防護服、手袋、各種透明シートの他、検査、治療用の検出キット、注射器、点滴用具、人工呼吸器、人工心肺などどれをとってもポリマーが多用されている。一方、第6期科学技術基本計画(2021年から5年間)が始まったところでアル。マテリアルがらみのキーワードは、持続可能、マテリアル革新力強化戦術、イノベーション、AI,パンデミック対応などである。いずれにしても今回のCOVID-19は、社会や産業のあり方まで変革してしまう可能性がある。当然、今回の騒ぎを克服した後には、全く違う社会になっているであろう。しかし、その基盤にナノ構造ポリマーの科学技術が大きな地位を占めるのを確信している。更にロシアのウクライナ侵略は、世界の安全保障体制を変える契機となりつつあり国防予算を増額する国が急増している。嬉しくない話であるが、更にAI,次世代通信、高性能高機能半導体、高性能高機能高分子材料、バイオプラスチック、ナノ構造ポリマー、マイクロ・ナノ加工の発展が期待されるであろう。

 本協会は、会員と企業会員の皆様の協力、貢献、積極的な提案をもとに、既存の学協会が出来ない様な産学官にとって貴重な行事を行えるところが魅力である。今後の積極的な参加、御支援、御鞭撻をよろしくお願い申し上げます。

Author: xs498889