2023年代表理事退任のご挨拶

NPOナノ構造ポリマー研究協会(RANSP)代表理事退任のご挨拶
東京大学・東京工業大学名誉教授  西 敏夫

 この度、2012年4月から11年間務めた代表理事を退任させて頂けることになった。この間色々ご協力頂いた会員、企業会員、運営委員会の皆様に深く感謝申し上げます。本会の目的は、定款にあるように「ポリマー材料と加工技術の実用化を通して経済や社会に大きな影響をもたらしているナノ構造ポリマー技術の研究の経緯と実現との道筋とを、広く社会に対して情報発信しつつ共有化する。」である。勿論この原則を拡大解釈した各種の活動も含まれている。活動の詳細は、この数年充実されたホームページや20周年記念のUSBを参照願いたい。
 筆者が代表理事を仰せつかったのは、2012年3月16日に当協会が創立10周年記念を東京農工大学で盛大に開催した直後であった。それまでは、2006年3月に発足した「TPE技術研究会」の会長として頑張っていた。当時は、前年に起きた東日本大震災、福島原発大事故の影響が残ってはいたが、民主党から自民党に政権交代が起き「アベノミクス」が始まったところであった。当協会も主要メンバーの若返り、運営委員会の発足(2013年4月~)、
マイクロ・ナノ加工研究会の発足(2014年3月~)、会員の多くが分担執筆した「高分子ナノテクノロジーハンドブック」、NTS社、1031ページ、2014年3月11日刊行など次々と行った。更にNEDOの「ナノ階層構造制御による超低燃費タイヤ材料開発」(2009~2012年)により、ナノ構造ポリマーが実際に役立つことも証明された。当時の雰囲気は、本協会が毎年出しているニュースレターでよくわかる。実際に筆者が毎年寄稿する挨拶文には、「これからのナノ構造ポリマー研究協会」、「チャレンジする—」、「着実な歩みの—」、「軸足のしっかりした—」などの表題を付けていた。更に、2017年には本法人所在地を創立者個人宅から千代田区のプラスチックスエージ社内に置けるようになった。言わば順風満帆時代であった。
 しかし、2017年に入ると、ポリマー分野の巨人であったダウケミカルとデユポンが経営統合し、日本では、三菱樹脂、三菱レーヨン、三菱化学などが経営統合して三菱ケミカルとなる一方、IT企業のGAFAの著しい台頭、グローバリゼーションの進展が進んだ。一方、マイクロプラスチック問題、気候変動問題などが浮上してきた。またこの頃には、2015年9月の国連サミットで採決されたSDGsが普及し始めた。しかし、これらの動きに反するトランプ大統領の米国第一主義が生まれ、2018年から米中対立が激しくなり、バイデン政権でも引き継がれている。2019年には、202年ぶりに平成天皇が生前退位して上皇となるなど社会、経済の潮目が大きく変わってきた。そこで運営委員会では本協会の対応をいろいろ討議した。ニュースレターには、「令和時代に向けての—」、「大変革時代に向けての—」と言う記事を寄稿した。そうこうするうちに、2019年末から中国発のCOVID-19パンデミックが始まり、国内外出張自粛、在宅勤務、テレワークが主体となり、RANSPの活動が大幅に制限され現在に至っている。更に日本では、2020年にRANSPとも関係する「2050年カーボンニュートラル」、「2030年後半からのガソリン車販売禁止」などが打ち出された。加えて2022年2月24日には「ロシアのウクライナ侵略」が始まり、現在でも見通しがつかない。
 RANSPではこれらの状況に対応し、ウェッブ会議、ウェッブ研究会、2020年8月からは、ウェビナーなどを始めている。ニュースレターの記事も「with Corona, post Corona 時代の—」、「異常事態下での—」と変わって来た。事務局の努力でホームページを更に充実させ、なるべく今までのRANSP活動ができるようにしている。しかし、研究会や交流会で対面の懇親会などがこの3年間ほど出来なくなったのは残念である。特に、「パンデミック、米中対立、ロシアのウクライナ侵略」によって脱グローバリゼーション、脱自由貿易、悪性インフレを始め、枚挙に糸目が無いほど世界情勢、日常生活が大きく変化しつつある。幸い、流石のCOVID-19パンデミックも最近は下火になり、2023年5月からは、2類から5類に分類が変わり、マスク着用が緩和される見込みとなった。5月20日のRANSP創立20周年記念会は、対面開催可能と予想している。
 直近問題として長らくお世話になっていた68年間続いたプラスチックスエージが2022年11月号を持って休刊するというニュースがあった。しかし、RANSPの住所を同じ千代田区にあるポステイコーポレーションに2023年4月1日から移転出来ることが決まった。また事務局の努力により、この20年間のRANSP活動を纏めたUSBが完成し、協会の財政基盤も極めて健全である。気がかりなのは、国際交流である。RANSPは主に高分子学会の高分子ナノテクノロジー研究会と協力して、長らく日中交流を続けてきた。最近では、2019年11月に中国山東省青島市で第13回中日先進高分子材料研究討論会を行った。2021年には東京農工大、東工大が中心となり日本開催予定であったが、パンデミックのために延期中である。米中対立激化があるが民間交流は可能な限り続けるべきと考えている。
一方、筆者は、丁度「80歳の壁」を何とか乗り越えた所である。この際若手に代表理事を譲り更にRANSPを盛り立てて頂きたいと願っている。特に今まで述べてきた最近の難しい問題の解決の鍵を握る材料には「ナノ構造ポリマー」が大切と信じている。具体的には、カーボンニュートラル、サーキュラーエコノミー、リサイクル、バイオポリマーなどであろう。今後のRANSPの持続と発展を祈って退任の挨拶とさせて頂きたい。

Author: xs498889