20240606 4.ナノコンポジットの論文・・・分析チームとの連携

4.ナノコンポジットの論文・・・分析チームとの連携
3.で粘土鉱物との出会い、層間でのナイロン6の合成、材料としての性能評価の論文について記載した。ここでどうしても触れておかなければならないことがある。それは私たちが合成した材料をしっかり分析してくれた方々の存在である。ポリマー中でのクレイの分散状態を見るために手元にある実体顕微鏡で観察したのだが、まったく何も見えない。

今から考えると当たり前であるが当時は不思議でならなかった。そこで電子顕微鏡で更に拡大して観察してみようという事で社内の顕微鏡グループの責任者に相談に行った。その答えは「ノー」。いつもは金属やセラミックスの表面観察をしているため、ポリマーのようなものを試料台のある真空チャンバーの中に入れたらガスが発生して汚れるという理由であった。これも一理あるので困っていたら、同期入社の60人の中にいた顕微鏡の担当者が、こそっと見てやるよと言う話でサンプルを置いてきたのである。

当時は「何も見えないよ。本当にクレイを入れているのか?」と言われていた。彼には頭が上がらないが、実際に入れていることを理解してくれて、何度も何度もトライしてくれた。その結果、一ヶ月後ぐらいに「何か細い線がいっぱい見えるけどわからない。」という事で二人して悩んでいた。

実は私自身がサンプルから超薄膜の切片を切り出して観察していることを理解していなかったのである。この原理を聞いた時に、この黒線はクレイの断面を見ているという事に気づき、本当にクレイがナノメートルレベルで最小のシリケート単位結晶層(1nm×100nm)で分散していることを確認できた。その後はクレイの量や種類を変えて相当な枚数を測定してくれた。この時は今のようにデジタルではないためそれぞれをネガフィルムとして保存し、気がついたときにはキャビネット一本、引出し4個がそのネガでいっぱいになっていた。

粘土の種類を変えてナイロン6クレイハイブリッドを合成し物性評価やその解析を行った論文が1)である。色々試した結果、やはり最初に用いたモンモリロナイトが最も物性が良いことが解った。またその理由としてクレイとナイロンとの電子的な相互作用の大きさが異なることをNMRにより説明したものである。

久しくその透過電子顕微鏡写真(TEM)でクレイの分散状態を観察していたが、私としては写真が2次元的なのでクレイを立体的見る手法がないか相談していた。ある時、分析の担当者から酸素プラズマエッチングを導入してみたらどうかと相談を持ちかけられ早速その方法を試すことになった。酸素プラズマとは要は部分的に燃焼させるものなので、ナイロンだけ燃えてクレイは残存するので立体的に見えるというのである。

サンプルをお渡しして待っていたら、酸素プラズマの照射時間を適切にコントロールしたらはっきりとクレイのシリケート層一枚一枚が分散していることが走査電子顕微鏡(SEM)で3次元的に観察できたのである。この写真を一目見たときに私は感動した。壁のように見えたのでナノウォール(nano wall)と命名し、すぐに論文にしようという事で当時創刊されたばかりのNano Lettersに投稿したら確か一週間で受理されたと記憶している。私の中では最も早い記録である。それが論文2)である。

1) A.Usuki, A.Koiwai, Y.Kojima, M.Kawasumi, A.Okada, T.Kurauchi,  
 O.Kamigaito
 J. Appl. Polym. Sci. , 55, 119-123 (1995).
Interaction on Nylon 6-Clay Surface and Mechanical Properties of Nylon  
 6-Clay Hybrid

2)A. Usuki, N. Hasegawa, H. Kadoura, T. Okamoto
Nano Letters, 1(5), 271-272 (2001).
Three-Dimensional Observation of Structure and Morphology in Nylon-6/Clay Nanocomposite

Author: xs498889

1 thought on “20240606 4.ナノコンポジットの論文・・・分析チームとの連携

  1. 臼杵様:
    メール拝見しています。とても興味深い内容です。丁度その頃、私たちもゴム中のカーボンブラックの
    3次元分散状態を陣内先生達と検討していました。結局、日本電子と共同で3次元電子顕微鏡システムを開発し、
    カーボンブラックやシリカの3次元分散状態を見ることが出来ました。また、確か先生のモンモリロナイトの3次元分散状態も
    研究しました。また、ブロックコポリマーのジャイロィド構造も3次元で見ることが出来ました。
    先生のテキストですが、1枚目の下から7行目にある、「立体的見る」ーーー「立体的に見る」と思います。
    西 敏夫

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