20240616 6.ナノコンポジットの論文・・・ポリプロピレンへの展開

自動車に最も使用されているポリマーは何と言ってもポリプロピレンである。自動車で使用されているポリマーの半分を占めている。当然ポリプロピレンでやってほしいという話になる。ナイロンでクレイのナノ分散がうまくいったとしても、ポリプロピレンでは全く性質が異なるため難しいことが予想された。プロピレンは気体でありその重合はノウハウが多くて簡単ではない。実際にトライはしたものの、中々高分子量のもので評価できそうなものは合成できない。そこでポリプロピレンに対しては有機化したクレイと市販のポリプロピレンを二軸押出し機の中で混練する手法をとることにした。

まずはクレイの有機化剤であるが、クレイをできるだけ疎水化するために、炭素数18のオクタデシルアミン(ODA)のアンモニウム塩を使用することにした。これで得られたODA-モンモリロナイトとポリプロピレンを二軸押出し機を用いて単純に混練しただけでは、いくら頑張ってもまったくクレイはナノメートルオーダーでは分散してくれない。クレイの層間にポリプロピレンがインターカレーションされないのである。数ヶ月間何も結果が出ないまま時間が経ちアイデアが枯渇したので取り敢えず入手可能なポリマーやオリゴマーを手に入れて片っ端から混練してみることになった。ポリマーとクレイを混練したサンプルのX線回折を測定し、クレイの層間距離に対応するピークが消滅するものを探していた。

ある時ついにピークが消滅し、クレイがナノ分散したものが見つかった時は飛び上がって喜んだ。それが両末端に水酸基(-OH基)を持つ水添ポリブタジエンだった。層間にやっとインターカレーションするポリマーが見つかり、かつこのポリマーとポリプロピレンは非常に相性が良く相容性があるため、ポリプロピレンと混練するとクレイがナノメートルで一層一層分散することができた。これは早く論文にしたほうが良いとの判断でnoteとして投稿し受理された。これが論文1)である。

この結果をポリプロピレンに造詣が深い社内の研究者に言ったら、それならもっと汎用性のある無水マレイン酸で変性されたポリプロピレンがあるのでそれのほうが良いだろうという提案をいただき、これもすぐに入手し実験を行った。その結果、見事にクレイの分散が達成でき論文として提出した。これが論文2)である。

ポリプロピレン(PP)と無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAPP)、オクタデシルアミンのアンモニウム塩で処理したクレイを二軸押出し機の中で同時に添加し混練することによってポリプロピレンクレイハイブリッドが合成できることがわかり、さらにクレイの種類により物性が異なることも明確にした。これをMacromoleculesに投稿してみた。編集者からは、論文の趣旨とは異なるものであるが新規性が高いので掲載すると言うメッセージをいただいた時は皆で喜んだ。これが論文3)である。

こんなに容易に合成でき、かつ混練するだけでいいなら何でもできる気になってきた。ポリスチレンではクレイとの相溶性をあげるために、MAPPと同じような役目をすると予想したビニルオキサゾリンとスチレンとの共重合体を混ぜて、ポリスチレンと一緒に混練することによりポリスチレンクレイハイブリッドが合成でき、性能も格段に向上した。これが論文4)である。

このように論文が同一の分野で掲載されていくと、査読の依頼がとても増えてきた。多い時は月に2-3報の査読が回ってきたことがある。できるだけ丁寧に対応していたがあまりにも多く、かつ新規性のあるものが減ってきたのでここは厳しく対応しようということにした。透過電子顕微鏡(TEM)写真が無いものはそのままでは受理しないことにした。X線回折スペクトルだけでは本当にナノ分散しているか不明だと考えたからである。

1)A. Usuki, M. Kato, A. Okada, T. Kurauchi,
J. Appl. Polym. Sci., 63, 137-139 (1997).
Synthesis of Polypropylene-Clay Hybrid

2)M. Kato, A. Usuki, A. Okada,
J. Appl. Polym. Sci., 66, 1781-1785 (1997).
Synthesis of Polypropylene Oligomer-Clay Intercalation Compounds

3) M. Kawasumi, N. Hasegawa, M. Kato, A. Usuki, A. Okada,
Macromolecules, 30, 6333-6338 (1997).
Preparation and Mechanical Properties of Polypropylene-Clay Hybrids

4) N. Hasegawa, H. Okamoto, M. Kawasumi, A. Usuki
J. Appl. Polym. Sci, 74, 3359-3364 (1999).
Preparation and Mechanical Properties of Polystyrene-Clay Hybrids

Author: xs498889

2 thoughts on “20240616 6.ナノコンポジットの論文・・・ポリプロピレンへの展開

  1. 臼杵先生:
    メールありがとうございます。とても現場の雰囲気が分かるエッセーですね。特に、無水マレイン酸変成PPとモンモリロナイトの
    論文は世界中で注目され引用回数が数千回でビックリしたのを覚えています。
    西 敏夫

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