ナイロン6クレイハイブリッドを実用化でき、その後学会での口頭発表や論文発表により材料の認知度があがり企業だけではなく大学からも共同研究の申し込みが多くあった。雑誌「高分子」に寄稿(論文1)2))したことも影響があったと思う。企業との共同研究ではパテントライセンスを前提とした実用化研究が主であったが、大学では基礎研究を行うために論文がその成果となった。思い出深い論文を紹介したい。
豊田工業大学の岡本正巳先生は東洋紡から移籍された方でポリマーに関しては幅広い知識をお持ちの方であった。同じトヨタ系の研究機関であり場所も比較的近いという事で意気投合し頻繁に議論する関係であった。また学生の方は海外からの留学生が多くて皆さんとても真面目に議論に参加し有益な共同研究をすることができた。論文の作成がとても速く、結果が出たら数日で書き上げるような超人的な方々でいつも感心していた。それが論文3)4)5)6)7)である。
ナノコンポジット材料を発泡するというアイデアはとても面白く、軽量化に関しては有効な手法であることは間違いない。会社のほうで所外発表の申請書を起票すると、承認されるまでには2-3週間は待たされるのであるが、(今となって言えることであるが)いつもフライングで承認される前に投稿していた気がする。ベトナムから留学されていたナム君はこれらの論文で学位を取得され、当時の三井デュポンフロロケミカル(現三井ケマーズ)に入社されたと思う。
東北大学の宇山浩先生(現大阪大学)からは植物油にクレイを混ぜたら面白いのではとのアイデアをいただき共同研究を行った。クレイ添加で流動性が無くなり素材として興味ある材料が出来上がった。一緒に行った学生さんの頑張りにより論文としてまとめることができた。私としてはサンプル提供と実験結果に対する討議により共著者にしていただくことができ感謝している。これが論文8)である。
なかにはあまりうまくいかなかった例もある。名前は伏せるが学会参加中にある先生からクレイとナノコンポジットのサンプルを分けてほしいとの相談を受け、会社に戻り次第すぐにサンプルを大学に送付した。そこではレオロジー特性を詳細に検討され、溶融時のチクソトロピー性発現のメカニズムを明らかにしていただいた。特に論文を書くというお話を聞いていなかったのでそのままにしておいたら、ある時会社の同僚から面白い論文が出ているよと教えてもらいそれを見てみると何と共同研究をした(つもりの)先生からの論文であった。驚いてすぐに先生に連絡したところ、謝罪の言葉をもらい何をしたら許していただけるのか聞かれたが、後から論文に著者を追加することはできないと判断しそのままになってしまった。特許では後日出願人などを加えることはできると思うが、論文ではできないので注意する必要があることを遅ればせながらこの時に学んだ。
臼杵有光、岡田茜
高分子, 43(5), 360-363 (1994).
アロイ-複合化からのアプローチ-複合化による高性能化-
2)臼杵有光
高分子, 48(4), 248-251 (1999).
ハイブリッド材料
3)M. Okamoto, Pham Hoai Nam, Pralay Maiti, Tadao Kotaka, Takashi Nakayama, Mitsuko Takada, Masahiro Ohshima, A. Usuki, N. Hasegawa, H. Okamoto
Nano Latters, 1(9), 503-505 (2001).
Biaxial Flow-Induced Alignment of Silicate Layers in Polypropylene/Clay Nanocomposite Form
4)Nam PH, Maiti P, Okamoto M, Kotaka T, Hasegawa N, Usuki A
Polymer, 42 (23), 9633-9640 (2001).
A hierarchical structure and properties of intercalated polypropylene/clay nanocomposites
5)Pralay Maiti, Pham Hoai Nam, Masami Okamoto, Naoki Hasegawa, Arimitsu Usuki
Macromolecules, 35, 2042-2049 (2002).
Influence of Crystallization on Intercalation, Morphology, and Mechanical Properties of Polypropylene/Clay Nanocomposites
6)Pralay Maiti, Pham Hoai Nam, Masami Okamoto, Tadao Kotaka, Naoki Hasegawa, Arimitsu Usuki
Polymer Engineering and Science, 42(9), 1864-1871 (2002).
The Effect of Crystallization on the Structure and Morphology of Polypropylene/Clay Nanocomposites
7)Pham Hoai Nam, Pralay Maiti, Masami Okamoto, Tadao Kotaka, Takashi Nakayama, Mitsuko Takada, Masahiro Ohshima, Arimitsu Usuki, Naoki Hasegawa, Hirotaka Okamoto
Polymer Engineering and Science, 42(9), 1907-1918 (2002).
Form Processing and Cellular Structure of Polypropylene/Clay Nanocomposites
8)Hiroshi Uyama, Mai Kuwabara, Takashi Tsujimoto, Mitsuru Nakano, Arimitsu Usuki, Shiro Kobayashi,
Chem. Mater., 15, 2492-2494 (2003).
Green Nanocomposites from Renewable Resources: Plant Oil-Clay Hybrid Materials
メール拝見しています。こういう話はとても貴重です。私もいろいろ良い経験や苦い経験をしました。
酷かったのは、世界でもあまりなかったパルス法NMRでBSの試料を測定して欲しいとアメリカに送ったところ、
それを元に少し一般化して勝手に論文を出されてしまったことです。勿論我々の名前は載っていませんでした。
あれ以来アメリカと共同研究する際は充分気をつけないとアイデアを盗まれると警戒しています。まあ、依頼するときに
秘密保持契約をしなかったのが間抜けだと言われればそれまでですが。当時はそのような概念すらありませんでした。
相手が外国の場合、信用や紳士協定に期待するのは危ないです。
西 敏夫