20240929 17.バイオポリマー第2弾・・イソソルビドをモノマーに使用

 バイオプラスチックの研究としてポリ乳酸のクレイナノコンポジット1)や天然ゴムとの複合化などの開発を進めていた。そのような中、フランスのロケット(Roquette)社から「イソソルビド」という植物由来の原料の紹介があり、話を聞いた研究者からこれをモノマーにしてポリウレタンやポリカーボネートの合成にトライしたいという話があった。「1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール」であり、グルコースを原料として得られるもので分子内に水酸基を2個保有する材料である。私もこれは面白いと共感しすぐに入手し合成に取り掛かった。

 ポスドクとして李さん(Dr. Lee Chi-Han、イ・チハンさん、現在はトヨタ紡織勤務)が韓国の大学から来てくれ一緒に研究を行った。彼は合成が得意で自分で器具を組み合わせて合成装置を作って要領よく実験をこなし、かつ成形、評価までも自分で行ってくれた。その結果をまとめたのが論文2)3)である。2)はイソソルビドをジオールのモノマーとして、各種のポリウレタンを合成、評価したもの、3)は同じくポリカーボネートを合成、評価したものである。

示差走査熱量測定と熱重量分析によりポリマーの熱的性質(Tg, Td)を調べ、ポリマーの貯蔵弾性率(E′),損失弾性率(E″)およびtanδを評価している。これらの結果を素早く出してくれるのでとても助かったが、論文発表するには会社で決済を得ないといけないため、遅くなってしまう事が多々あった。

会社ではトップの考え方で所外発表の方針が結構揺らぐことがある。たとえば利害を重んじる方であれば学会発表や論文発表は単に敵に情報を与えるだけという判断で却下されてしまう事がある。また当然ながらトヨタグループに対して不利益にならないようにすることも重要視される。色々な部署を通りながらそれぞれの立場で判断される。今回は新規な材料であるためしっかりと特許出願を行いそれが公開されてからと言う慎重な判断となった。私自身は特許さえ出願しておけば、外部に発表してその技術の有用性を認めてもらう事や発表することにより研究者自身の育成になると考えていたが会社の判断なのでそれは待つしかない。

 2)のポリウレタンは新規な材料として発表することができたが、イソソルビド系ポリカーボネートに関してはどうも展示会などの情報から他社も実施していることが分かってきた。後で解ったが三菱ケミカルの透明バイオエンプラDURABIO™ がイソソルビドを使用したポリカーボネートであった。樹脂メーカーは新素材展やナノテク展、エコプロ展などで新規開発品の発表を適時行っているのでその点は注意して情報収集に努めなければならない。私もできるだけ展示会などには足を運ぶようにしていた。そうなれば単にイソソルビド系ポリカーボネートの合成だけでは論文化は難しいと考え、新規性を出すために我々得意のクレイとのナノコンポジットにしてニートよりも弾性率が大幅に向上することを示した。それが論文3)である。

 今回調べてみて分かったが、その後も彼は組成を色々と変えてイソソルビド系のポリマーを合成し評価しており、その辺を論文4)5)にまとめていた。3年間のポスドク期間の成果で4報の論文を提出しているのは素晴らしい。しかしながら三菱ケミカルは既に量産し、自動車用途にも採用しているので技術的に進んでいると思わざるをえない。

Hirotaka Okamoto, Mitsuru Nakano, Makoto Ouchi, Arimitsu Usuki, Yuji Kageyama,
MRS Online Proceedings Library 791, 1110 (2003).
Improvement of Crystallization and Mechanical Properties of PLA by Means of Clay Nanocomposite.
2)Chi-Han Lee, Hideki Takagi, Hirotaka Okamoto, Makoto Kato, Arimitsu Usuki,
J. Polym. Sci., Part A, Polym. Chem., 47(22), 6025-6031 (2009).
Synthesis, characterization, and properties of polyurethanes containing 1,4:3,6‐dianhydro‐D‐sorbitol.
3)Chi-Han Lee, Makoto Kato, Arimitsu Usuki,
J. Mater. Chem., 21, 6844-6847 (2011).
Preparation and properties of bio-based polycarbonate/clay nanocomposites.
4)Chi-Han Lee, Hideki Takagi, Hirotaka Okamoto, Makoto Kato
J. Appl. Polym. Sci., 127, 530-534 (2013).
Improving the mechanical properties of isosorbide copolycarbonates by varying the ratio of comonomers.
5)Chi-Han Lee, Hideki Takagi, Hirotaka Okamoto, Makoto Kato,
Polymer Journal, 47, 639–643 (2015).
Preparation and mechanical properties of a copolycarbonate composed of bio-based isosorbide and bisphenol A.

Author: xs498889

1 thought on “20240929 17.バイオポリマー第2弾・・イソソルビドをモノマーに使用

  1. メールありがとうございます。今回も興味あるテーマですね。特にバイオポリマーとか植物由来の原料は今後重要性が増すと思います。
    但し、いつも心配するのですが、バイオ系の話は、実際に大量生産するには、相当の面積と人員が必要で効率も相当高くないと難しい点です。
    例えば、まあ優等生の天然ゴムですが、大体収量は、1ヘクタール(100メートル四方)の農園で、年間1~3トンです。1万トン生産するには約1万ヘクタール
    (約10キロ四方)です。ゴム農園を維持収穫する人はまあ1ヘクタールにつき1人は必要なのでこれを満たすのは発展途上国しかありません。実際マレーシアなどは
    ゴム農園は殆ど効率の高いパーム椰子園に置き換わってしまいました。天然ゴムよりももっと高く売れる物、漢方薬、健康食品、高付加価値品、等なら何とかなりそうですが。
    社外発表は上司の方針でいろいろ変わるので苦労されたと思います。ゴムのリサイクルのような公共的な研究は、社外発表は許可されやすいのですが。
    逆に社外発表して他社が特許を取れないようにする戦略もありました。
    ベル研究所では、社外発表の前に特許担当部門の許可が必要で、「基礎研究なので問題無い。」と申請すれば大体許可が下りました。IBM研究所は、傑作で
    物によるとドンドン社外発表させました。これで、他社を慌てさせ研究費を浪費させる戦略です。昔、IBMがフォトケミカルホールバーニングを発表してメモリー素子に
    使えるとか言いましたが、実は囮でした。また単原子を使ったトランジスターや回路も囮に近いです。これで結構、日本の大学や企業の研究所が研究費を浪費させました。
    身近な所では、以前ファイアストーンタイヤがキャスティングタイヤプロジェクトをぶち上げブリヂストンもそれに乗ってプロジェクトを立ち上げ失敗しました。これも今から思えば
    囮です。
    気になるのは、2ナノ半導体技術をIBMが開発したと言ってラピダスが爆走していますが、肝心の技術に関しては情報が少なくほぼブラックボックスです。政府は1兆円近い出資を
    していますが、囮でないことを祈るばかりです。独創的な技術ほど失敗が多いのは確かですが、どうするかは難しい問題ですね。
    西 敏夫

コメントを残す