20241117. 23.木からクルマをつくる・・・NCV(ナノセルロースヴィークル)

 会社で役職定年になりまた研究者としての生活に戻っていた。するとどこから聞きつけたのか京都大学生存圏研究所の矢野浩之教授と阿部賢太郎助教が会社を訪ねてきた。元々は農学部で木材の研究をしているがその基本単位であるセルロースを用いて樹脂の補強をしていると言う。NEDOのプロジェクトで進めているので京大の客員教授となってアドバイスをして欲しいという事であった。セルロースをナノメートルレベルにまで分散させる(これをCNF、Cellulose Nano Fiberと呼んだ)という話なのでクレイナノコンポジットと通じるものがあると考えた。エフォートは5%(月に一日、1/20の勤務)なのでそれくらいなら大丈夫という事で話を進めてもらった。半年くらい経過した後、来年から環境省のプロジェクトでこの材料を使用してクルマをつくるので今度は特任教授として週に一日(エフォート20%)来て欲しいとの事になった。クルマをつくるのは面白いと思い、この話もお受けすることになった。2016年4月から正式に着任し、豊田中研80%、京大20%の生活がスタートした。車で2時間程度で行けるのでコーヒーを片手にいつもドライブ気分で向かっていた。しかしいざ京大に行ってみるとNEDOの事業で材料は作っているものの少量でありとてもクルマをつくれる量は確保できないし、クルマをつくるための会社もまったく揃っていないことが分かり愕然とした。そこでエフォートを20%→50%と徐々に上げていき仲間を作ることをまずは実施した。10月迄の半年間で20社程度*の会社を集め、何とか初年度のスタートを切ることができた。しかしながら今振り返ると2016年度は実質半年ほどしか時間が無くほとんど活動ができなかった。また今までにクルマの部品を扱っていなかった会社にも参加していただいたので、とにかく技術をオープンにして成果の共有化をすることや部品の名前やその規格を明らかにしてできるものを絞っていくことにした。2ヶ月に一度の進捗会議では各社から必ず報告をしてもらう事と終わった後に懇親会を行いメンバーの垣根を無くすことに心がけた。アドバイザーとしてトヨタ自動車の材料技術担当の部長さんや過去に部長をされていた野村孝夫さんにもご参加いただいたのはとても心強かった。環境省の担当者も必ず懇親会まで出席してくれ前向きな意見を言ってくれたことはとても嬉しかった。クルマをつくると言ってもいきなり未知の材料で仕上げることは不安だったためまずは現在市販されているクルマの部材をこの材料で置換してみることにした。選んだクルマはスポーツカーであるトヨタ86である。部材としてはボンネット(エンジンフード)とトランクリッドを選び試作を行った。ボンネットは金沢工業大学の影山教授(寄稿文15でバイオコンソーシアムを実施した際のリーダー、60歳から金沢工大に転職されていた)とトヨタテクノクラフト(現在のトヨタカスタマイジング&ディベロップメント)によりカーボン繊維(CF)を使用したRTM(Resin Transfer Molding)を応用して、CFの代わりにCNFを用いエポキシ樹脂とのRTMにより試作を行った。トランクリッドの水平部分は利昌工業の100%CNF素材、垂直部分はCNF10%添加ナイロン6の射出成形により作製し、両者を名工大の栗山晃特任教授(以前は東亞合成の製品研究所所長)により選ばれた接着剤によって接合した。このクルマを2018年3月に完成させ、4月になって一部のマスコミに公開したところ大きな反響があり、1)に示す新聞にほぼ全面の写真付き記事として紹介された。また実際にクルマに装着して走ってみたがまったく問題なく使用できることがわかった。そこで次はいよいよゼロからのクルマ作りに進むことになった。残り2年しかなくこの後が大変であった。この続きは次回に報告する。

日本経済新聞、2018年(平成30年)4月26日(木)11面 未来学
ポスト平成の未来学 第6部 共創エコ・エコノミー
木のクルマ 強度5倍 鉄の時代軽く抜き去る

*NCVプロジェクト参画機関:
京都大学、サステナブル経営推進機構、京都市産業技術研究所、金沢工業大学
名古屋工業大学、秋田県立大学、昭和丸筒/昭和プロダクツ
利昌工業、イノアックコーポレーション、キョーラク
三和化工、ダイキョーニシカワ、マクセル、デンソー、トヨタ紡織
トヨタカスタマイジンズ&ディベロップメント、アイシン精機、東京大学
産業技術総合研究所、宇部興産、トヨタ自動車東日本

Author: xs498889

1 thought on “20241117. 23.木からクルマをつくる・・・NCV(ナノセルロースヴィークル)

  1. メール拝見しています。NCVの話も面白いですね。NEDOのプロジェクトでは、最終的に何か現物が出来る事が要請されますが、それが工業的に
    大量生産にまで繋がるかは別問題です。それでもトヨタ86の一部に使えたのは大きな成果と思います。トヨタ86は長女が乗っているので身近に感じます。
    環境省プロジェクトは更に具体的になるので組織づくりまで随分苦労されたと思います。また文中に野村孝夫博士の名前が出てきてとても懐かしいです。
    確か、トヨタスーパーオレフィンポリマー(TSOP)を開発され、今では世界中の車のバンパー等に普及しているはずです。TSOPは正にナノ構造制御ポリマーアロイの
    優等生ですが、一般にはあまり知られていないのが残念です。
    西 敏夫

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