20241125 24.木からクルマをつくる2・・・NCV(ナノセルロースヴィークル)2

 2017年度までにトヨタ86の2つの大物部品(ボンネットとトランクリッド)を材料置換して走行確認をしたことにより少し自信がつき、次はゼロからのクルマ作りに取り掛かった。実は2017年5月に富士スピードウェイをお借りしてトヨタ86の試乗会を行い、これには参画機関の方々にも来ていただいて成果発表会を行いつつ次の試作車(コンセプトカー)の話を少しずつ話題にするようにしていった。プロジェクトの期間は4年間と決められていたので残り2年しかない。またそんな頃に次の東京モーターショーが2019年の秋(10/24~11/4)に開催されることがアナウンスされた。環境省からはこの東京モーターショーにコンセプトカーを出展することというとんでもない課題が与えられた。環境省からのクルマへの要望は下記のような漠然とした指示であった。
1.将来的に自動車の軽量化が進むことが予想されるが、自動車メーカー等の選択肢と成り得るポテンシャルを引き出すこと。
2.実際に走行することが可能なCNFコンセプトカーを作成し、CNF由来の自動車の環境優位性を幅広く国民にPRすること。
3.コンセプトカーのデザインは先進的で、自然由来であることが体現できているデザインであること。
またガソリン税から費用を捻出しているためにエンジン車で作ることという話であった。
はて困ったぞ!
皆で悩み続けた。我々が出した最初の答えは、次のようなものである。
・東京オリンピック2020に向けて高まる国民の誇りとリンク
・自然へのリスペクト – ニッポンの車 –
・ニッポンの魂と技
・環境共生への未来テクノロジー
 クルマはデザイン画を作らなければイメージがつかめないのであるが、当方もそのコンセプトが明確でないためまずはそこからのスタートである。なんとかカーデザイナーの方にお願いして「自然」、「日本(和)」の言葉を伝え、更に矢野先生からは「円空の木彫り菩薩」のイメージという概念が出た。カーデザイナーの方からはそれだけですか?とかなり驚かれたが、優秀なデザイナーの方であり一ヶ月ほどで数十枚のデッサンを仕上げてくれた。次は参画機関の総意でどのデッサンをベースにクルマを仕上げていくかという事で全体会合の際に皆さんにアンケートを取り決定した。私が気に入っていた木彫り感のあるデッサンと同じものが選ばれてホッとした。
 そこである程度スケジュールが決まってきたのを見計らい2018年10月に日本自動車工業会モーターショー室の室長さんにアポをとり、初めて出展させていただくので指導をお願いに行った。親切に色々とアドバイスをいただき今後のタイトなスケジュールが明確となった。余談であるが出展料は¥31,500/m2
であり、我々のブースは135m2であったため、¥4,252,500であった。
 デザイン画が決まると今度は詳細な部品に落とし込み、それをどこの会社がどの材料でどんな加工手法で製作するかを決めていく必要がある。皆さんがやりたいのはやまやまであるが、予算、納期、技術の完成度、クルマとしての見栄え、チャレンジ精神などを考慮しつつ決めて行った。射出成形の金型は数千万円するものもあり、本当はすべての候補部品の金型を試作したかったが予算と納期によりかなり絞ってしまったことは各社に我慢を強いたかもしれないと感じている。逆に誰もやってくれなかった樹脂外板をトヨタ紡織が引き受けてくれたことは本当に有難かった。これは寄稿文20でバイオナノアロイを一緒に実施した鬼頭専務の貢献が大きい。会社として自社の製品群にない部品を試作してくれたことは異例のことであった。
 クルマが出来上がるにつれて新たな悩みが発生した。私自身は部品の色は素のままで展示しようと考えていたが、各社からそれでは会社からの許可が出ないし東京モーターショーの雰囲気に合わないという意見が多く出てきた。それで新たに日本ペイントに声をかけて新規な塗料を制作していただくことにした。2019年4月のことである。カラーデザイナーにお願いした色のコンセプトは和、自然、サステナブルである。ここでも数十種類のカラーバリエーションを新規に作製していただくことができた。これも参画機関の全員で決めることにし、またネーミングもアンケートにより実施した。その結果13の候補*から「環桜(わざくら)」という名前に決まった。
 最後に会場で流すプロモーションビデオ(PV)の作製をする必要があり、少なくとも展示の一か月前には撮影をする必要があると言われた。場所は私の個人的な希望で名古屋のトヨタ産業技術記念館にして交渉した。話し合ううちに2019年9月24日(火)がちょうど閉館日でありこの日にコンポン研の取締役会が開催されるという情報を入手した。つまりこの日にコンポン研の幹部(豊田章一郎名誉会長、内山田竹志さんなどトヨタグループの社長、会長など)が集まるのでこの日にPV撮影をすれば、うまくいけば彼らにお見せできると考えた。うまく調整できてこの日にPV撮影を行うことになり、関係者はその日の朝4時に集合とした。日の出とともに発進するクルマを撮影するのである。順調に撮影が進み、いよいよ15時頃にコンポン研の秘書の方からそろそろ終了しますという連絡をうけ、試作車を玄関につけて皆さんが出てくるのを待った。残念ながら章一郎名誉会長は体調不良でご欠席であったが多くのトヨタグループ幹部の方々に東京モーターショーでの展示前にお見せでき個人的にとても満足した。このPVは環境省のYou Tube1)で公開されている。
10月23日のプレス関係者への展示の前にクルマを運搬し24日からの一般公開を待つのみとなった。私は日程の中で半分程度は現場に足を運び説明員をした。一番驚いたのはブースに何と小泉進次郎環境大臣(当時)と豊田章夫トヨタ自社長(当時)が二人で現れたことである。もちろん多くのマスコミの方が同伴で来られたので現場は大混乱であったが、しっかりと説明を聞いていただけて今までの苦労が報われた気持ちになった。
 すべて終わりこれらのクルマの内容を雑誌に投稿してほしいという依頼を日本ペイントの方が編集委員をされている雑誌から言われまとめることになった。これが論文2)である。技術内容はこれにすべて記述した。
今になって振り返ると2019年の年末には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が発生し多くの被害が出て日本でも2020年4月からは学校までも臨時休校になるなど大変な年になったことを考えると、2019年にこのような大仕事ができたことは奇跡的だと思えて個人的には大きな達成感を味わうことができた。

色のネーミング候補*
優輝紅、優久櫻、優巡紅、優環咲良、和咲来、循咲来、清彩花、環桜、たまおう、たまざくら、美環色、淡紅紬、かさね桜

2)臼杵有光
色材協会誌,  2021 年 94 巻 6 号 p. 169-174
ナノセルロースヴィークルプロジェクトの成果について
-セルロースナノファイバーを活かしたクルマづくり-

Author: xs498889

4 thoughts on “20241125 24.木からクルマをつくる2・・・NCV(ナノセルロースヴィークル)2

  1. メール拝見しています。貴重な体験をされ、素晴らしい成果をげられたようでおめでとうございます。ユーチューブの動画も感激です。
    ネットに「ナノセルロースヴィークル」と入れると更に多くの画像、動画が出てきて楽しめました。
    しかし、環境省なのに「エンジン車」に拘った理由が面白いですね。我々が関わった「しなやかタフポリマー」プロジェクトのコンセプトカーItoP
    は、経産省(NEDO)絡みなのでィンホイールモーターの電動車になりました。NCVとItoPのデザインの違いも興味深いです。NCVを見たとき、
    確かに「円空仏」を思い出したのですが、矢野先生の注文とは知りませんでした。面白い発想ですね。
    伊藤先生が、コンセプトカーまで作ることに急に決まったと慌てていたのを思い出します。私は、そこまでやるなら「空飛ぶ車」や「ドローン」まで
    やったらと言ったのですが、当時は時期尚早で駄目になりました。ドローンがこれほど普及し、戦争で大活躍するとは誰も思っていなかったようです。
    日本の防衛省でさえ「ドロ-ン」が武器になるとは最近まで想定していなかったと聞いています。
    木の車と言えば、昔の東ドイツの国民車トラバント(1958~1991年)を思い出します。確か、鋼材が不足していて紙パルプ、羊毛。リサイクル綿と
    フェノール樹脂のFRPでボディを作た筈です。表面仕上げが拙いので「段ボール車」と言われたと聞いています。又、2001年9月にロシアのヴォルゴグラード、
    昔のスターリングラードでミニ国際会議(EASPAT-2001)が開催された時にモスクワからヴォルゴグラードまで飛んだアントノフという旧ソ連製のジェット機は
    内装部品にパルプを樹脂で固めた材料を使っていました。飛行中何となく燃料の匂いがして、隣の人から「これは旧式で墜落するまで使うんだ!」と言われて
    肝を冷やした覚えがあります。ナノセルロースファイバーを使った複合材料は、遙かに高性能と思います。因みにEASPATは、日本、中国、ロシア、韓国の
    参加者限定ミニ国際会議ですが、現在では開催が難しいでしょうね。
    そう言えば、東レは、ナノアロイ(NANOALLOY)を登録商標にしているようです。旨いやり方ですが、誰も文句を付けなかったのでしょうか?
    西 敏夫

  2. 返信有難うございます。
    ナノアロイの商標登録ですが、過去に例が無ければ割と簡単に登録されるみたいです。
    以前豊田中研で開発したゴムのように柔らかいチタン系の金属化合物をラバーメタルとして申請したら前例があり却下されました。結局、ゴムメタルは過去の例がなく登録された経験はあります。この材料はメガネフレームなどで使われ豊田通商から市販されています。ネーミングはとても大事ですね。
    臼杵

  3. メールありがとうございます。私が出張用に使っているメガネフレームをチェックしたらT-GUMMETALと書いてありました。確かに軽くて柔軟性があり重宝しています。

    先生のメールを見るまでは気がつきませんでした。眼鏡屋さんは「チタンフレームで良いですよ。」とだけ言っていました。

    西 敏夫

  4. 確かにあまり知られていません。
    正確な組成は
    ・超弾塑性型新チタン合金「ゴムメタル」
    Takashi Saitoら, Science, Vol 300, Issue 5618, pp. 464-467 (2003).
    Multifunctional Alloys Obtained via a Dislocation-Free Plastic Deformation Mechanism
    に書いてあります。
    切削性も良くて素晴らしいものです。
    ただし残念ながら高くて肝心の車には使われてないです。
    臼杵

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