私が勤めていた(株)豊田中央研究所と京都大学は共に研究することが仕事でありその仕事の評価は苦労した。製造会社や販売会社であればその生産量、売上げ、利益など明確な指標があるが研究では数値化できない事柄が多くある。若い時代で自分の部下(評価対象)がいない時には思う存分自由気ままに実験三昧だった気がする。しかしグループ、研究室、研究部を持ち多くの研究者と一緒になってからは研究者を評価(査定)する必要が出てくるためとても気を使った。またそういう自分自身も上司から評価されるのでその方法は結構悩んだ。人が人を評価するのであるから百点満点の方法があるわけではないがいい加減なことはできないのでその時は真剣に実施し常々見直した。その時々で試行錯誤したが思いつくままに書いてみたい。すべてが同時にできたことではないことを承知の上で読んで欲しい。
まずは何を評価するかであるが、①研究の評価、②成果の評価、③人の評価にした。また②成果の評価は、②-1所内での評価、②-2所外からの評価と分けた。研究の評価指標はまずは研究のアウトプットの量であろう。所内では業務報告書(速報、論文、総説、出張報告など)が筆頭にあげられる。ほぼ全員が年間で5-6報は提出していたのでこれはどちらかと言うと当然の業務範囲と考えていた(逆に書かない人は評価対象から外れることもある)。でも数が多ければ良いと言う訳ではなく私としては報告書に質の考えも入れて評価していた。また改善工夫提案制度があって業務以外でも効率化の工夫やコスト低減の工夫など重視した。所内では業務を提案できる制度があり選ばれるとインセンティブが与えられるので皆さんが積極的に応募した。これは専門性が高いので外部の有識者の方にも入っていただき評価委員会の中で相談して採択を決めていた。
②の成果であるが主に特許と論文である。特許はインパクトの大きさなどを知財委員会で審議し重要性の高いものを選んで戦略的に出願を行っていた。その結果として大きな知財収入が得られたものは評価される。しかしながら成果が現れるのは出願してから5年あるいは長いものでは10年かかるものがあり、タイムラグが出てしまう事がある。悩ましいが致し方ない。論文は最近ではIF値なるものがあり数値化してしまいがちであるが一昔前はそのようなものは存在しなかったのでその分野で主戦場としている雑誌を同分野の研究者の皆さんで協議して適時投稿していた。掲載されれば評価される。企業研究ではなかなか論文投稿まで推奨しないかもしれないし、あまり企業としてのメリットはないかもしれない。現に論文は敵に塩を送るものだと言って認めない上司もいたのでこれはその時々の考え方である。しかし論文にすることで自らの成果をまとめられるし広く世間に知っていただく機会になるので私はとても重要な位置づけにしていた。
③の人の評価であるがこれは業務内で行う議論の際の発言や提案、研究室ポスターセッションでのプレゼンのまとめ方など研究者とできるだけ面着できる機会を利用して判断した。以前からこの研究者は優れているからと言う色眼鏡ではできるだけ見ないように心掛けた。
②-1の所内での評価は上記のようなアウトプットや所内行事でのアクティビティが主である。
②-2の所外からの評価としては学協会でのアクティビティと株主であるトヨタグループからの評価が主である。トヨタグループから受託研究をいただいて実施し業務報告書を作成しそれに対して結果が期待通りか期待以上、以下かなどの評価書をもらうのである。また毎年この会社にはこの受託業務が一番貢献できたなどのリサーチオブイヤーという賞を創ることになりこれが結構重要な評価指標に位置づけられた。
ある時にこれらの各評価指標に点数をつけて(例えば業務報告書速報は1点、総説は3点、論文はIF値×論文数など)実施されたこともあるが全く想定した順位とは異なってしまい、さらにポイントが付かない業務は誰も手を付けなくなってしまうなど問題が多く中断となったこともある。完璧な正解は無いと思うのでこれからも評価にはまだまだ多くの改善が必要と思われる。
これらの査定は給与と賞与(ボーナス)に影響が出てくる。給与は私の頃は年功序列が主でありあまり世代で差が無かった記憶だがボーナスは大きな差が出た。同年代でもトップと下位では半分程度に下がってしまう感じであった。自分自身もボーナスが下がったりして大きく落ち込んだことはある。しかし会社時代は必ず上司と本人がしっかり話し合って納得して査定をしていたので結果に対しては十分に腹落ちしていた。
批判を恐れずに言うと大学に少し身を置いた際にあまりにも先生の評価がされていないことに驚いたが、これは大学では先生個人の人格を重要視しているためなので仕方がないことかもしれない。先生はそれに甘えることが無く自らの研究専門領域をしっかり追及することに努力してもらいたい。
1 thought on “20250106 29.仕事の評価”
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メール拝見しています。研究や人の評価は難しい問題ですね。特に大学であまり適正な評価がされてきたようには見えません。しかし、最近
世界大学ランキングなどが出てきて何とかしようとしているようです。添付ファイルは最近世界大学ランキングでメキメキ頭角を現してきた外国の某大学
から依頼された教授の評価フォームです。随分厳しく評価してスタッフの成長を期待しているようです。多分複数の方に依頼を出して集計しているのでしょう。
依頼先の選定は多分researcher ID やネット情報を使っているのでしょうが詳細は不明です。
評価の元になる書類は、
・学部卒以来の経歴。
・研究の核心と学術的イノベーション(300ワード以内)
・最近3年間の主な学術的成果、工学的応用、社会・経済効果、専門家からの評価(500ワード以内)
・研究グループの国内外への影響(国内外の学会での招待講演、学術誌の総説等)
・最近3年間の主なプロジェクト(5件まで)。プロジェクト名、予算、期間、予算獲得機関名など。
・最近3年間の代表論文と引用回数、発表論文誌のインパクトファクター(10報以内で3本は別刷りのPDF)
・最近3年間の特許申請、取得、実施状況。
・最近3年間の院生指導数、教育歴、担当科目、受講者数、教科書執筆歴等
・教育方針と成果(500ワード以内)
・学術団体役員歴、学術誌の編集者歴等
・次の3年間に何をしたいかとその結果予測等(500ワード以内)
全部でA4版にしてビッシリ8ページ位です。
作成するのも結構大変だと思いますが、評価する方も20人分くらいあるので大変です。何とか採点して、送りましたが、コメントに「最近3年間で評価は難しい。
せめて5年間ぐらいにしないと本当にオリジナルな成果は出てこない。もっと教授を信頼したら良い。」と書いておきました。
評価される方は、必死でしょうが、これだけの内容を準備したら、これを他の期間に送って有利な転職に使う可能性もあります。
評価を厳しくするのは良いかも知れませんが、逆に人材を失う可能性も高くなると考えるのが自然です。昔いたベル研では、評価も厳しかったのですが、
人材の流動性も高く毎年10%は消えていました。又、有能な部下に逃げられた上司は左遷される事もあったようです。
西 敏夫