20250518. 45-2.高分子材料は金属材料のマネをしている??2

 寄稿文45で金属材料の研究に触れ、高分子が後追いのような印象を与えたかもしれないので45-2として高分子の優れたところについて述べたい。自動車用部品に関しては今までに金属を高分子に代替した例が多くあるので列挙する。
・インテークマニホールド(インマニ)
 エンジンに空気を供給するための部品であり昔はアルミニウムの鋳造で製造されていた。それが今ではガラス繊維(GF)30-40wt%添加で補強されたナイロン6が多く使用されている。軽量化はもちろん達成されたが、実はそれ以外に内部表面の平滑性が向上し空気の流れが改善したというメリットもあった。京大で実施したNCVプロジェクトではナイロン6にCNF(比重1.5)15wt%添加してGF(比重2.5)30%と同等の剛性を実現でき、更なる軽量なインマニを試作することに成功した。
・燃料タンク
 ガソリンのタンクであり昔は鉄で製造されていた。今はポリエチレン/エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)/ポリエチレンの3種5層(界面には変性ポリエチレンの接着層がある)である。軽量化と共に形状の多様性が達成でき、エンジンルーム内の複雑な空間にも適用できるようになった。これは高分子の良好な成形性によるものである。また鉄と違ってガソリンによる腐食性が低減し製品寿命の向上に寄与している。
・バンパー
クルマの前後に装着されている衝撃吸収して乗員を保護する部品である。これも昔は鉄で製造されていた。1980年代には発泡ウレタンが使用されてきたが、リサイクルに不向きであることからポリプロピレンを使用する検討が行われた。トヨタ自動車ではポリプロピレンメーカーの全面的な協力によりTSOP(Toyota Super Olefine Polymer)が開発され、現在ではすべてのトヨタ車の標準材料になっている。ボデーと同色の塗装をして意匠性の向上にも役立っている。
これらの例から理解できるように自動車では軽量化のために高分子材料を積極的に使用してきた。現在では重量で約10%程度の高分子材料を使用している。またその種類ではポリプロピレンが半分を占めている。内装部品はほとんどが高分子材料であり、車全体の体積でいえば50%以上は高分子材料である。
高分子材料ならではの加工法として溶媒キャスト、スピンコート法がある。高分子を溶解する有機溶媒に溶かしてガラス基板上などに展開し溶媒を除去する方法でありこれは金属では真似できない。自動車の塗装が代表例であるがまさにクルマの外観の商品価値を決めているものと言っても過言ではない。また電子基板にはワニスなどの保護膜(絶縁層)が塗られているがこれも同様である。究極の薄膜はラングミュア・ブロジェット膜(Langmuir-Blodgett film)が知られており、これは有機単分子層を重ねた機能性超薄膜である。装置も市販されており比較的手軽に作製することができる。実用上と言うよりは分子のキャラクタリゼーション手法として研究に多用されている。
最近は金属材料、高分子材料共に3Dプリンターが良く用いられるようになってきた。高分子材料は高温で溶融して流動するため大量生産される自動車では射出成形がもっぱら用いられている。しかしながら射出圧がかなり高いために樹脂の射出用金型はその圧に耐えるように作る必要がある。そのため金型はかなりの高額であり、かつ仕様の変更が難しい。また大型の金型になるとその保管も大変である。そこで保管期限の終わったクルマの金型部品に関しては少量多品種に適用可能な3Dプリンターで対応することがある。アフターマーケットと呼ばれるところである。樹脂の3Dプリンターは有望だと考え京大時代のNCVプロジェクトで少し検討した。金属材料で良く用いられているPBF(Powder Bed Fusion、粉末床溶融結合方式)法が面白いと考え、樹脂粉末でトライしたが低融点のものは粉末形状が崩れてしまいできなかった。しかしながら樹脂(ナイロン6)にCNFを添加した粉末を使用すると成形が可能なことをみつけ、東京モーターショーに出展した試作車のタイヤホイールとバンパーサイドフィンに適用した(1)。空洞の中に支柱を付けるなど射出成形では不可能なこともできた。これは金属の技術者から見たらマネと言われるかもしれない。
最後にこれからの自動車に関しては適材適所でトータルに考えて環境負荷の少ないバランスの良いクルマ作りが求められるであろう。
奥平有三、臼杵有光、矢野浩之、栗山晃、熊坂充弘、プラスチック成形加工学会 成形加工シンポジア B-214, p89-90 (2019).
“CNF強化ポリアミド樹脂の3Dプリンター成形”

Author: xs498889

2 thoughts on “20250518. 45-2.高分子材料は金属材料のマネをしている??2

  1. いつも興味深いお話を有難うございます。
    樹脂と金属ということでは、私の会社時代(三井化学)で熱可塑性ポリイミドの市場開発を
    行っていた時の事がおもい起こされました。
    当時、日産自動車とターボチャージャーのインペラの共同開発をおこなっており、素材は30%の
    カーボンファイバー入りポリイミドでアルミ代替えとして吸気側のインペラとして開発が進み、
    実車テストまでこぎつけ、樹脂のコンパウンドの現場に日産の技師長が立ち合いに来ることとなりました。
    その時技師長曰く樹脂は歴史が浅くポリバケツのイメージで金属と比較してとても信頼できないとの
    ことで少しショックをうけました。
    しかいこの開発がうまくいった要因は、ポリイミドは耐熱性・機械強度があり、金属と比較して非常に
    軽量であるため数十万回転の遠心力にも耐えたことです。
    PPのバンパーや1部のエンジン部品にエンプラ樹脂が自動車会社で使用され始めていましたが、名門の
    機構部品の関係部署ではまだまだ樹脂の信頼が低いと実感しました。

    From 重野譲二

  2. メール拝見しています。具体的でとても参考になり、ありがとうございます。
    私の知っている例で面白かったのは、
    1)インテークマニフォルドに関しては、1994年にVAMASの仕事でベルギーのソルベー社のブリュッセルにある研究所で講演した時に
    研究所を見学させてくれました。いろいろ興味ある物を見せてくれたのですが、その一つがエンプラを使った自動車エンジン用のインテーク
    マニフォルドを金属と同じようにロストワックス法で作るところでした。今はどうなっているか知りませんが、一寸ショックでした。
    又、ソルベーの基礎研究所長は、イリヤ・プリゴジン(1917~2003年)で1977年に非平衡熱力学の散逸構造理論でノーベル化学賞を
    受賞した人物でした。彼が書いた ”From being to becoming”と言う本は、名著で東大で輪講に使いました。
    2)ポリマー製の自動車用ガソリンタンクは確かにイノベーションですね。その延長で1993年にアクロン大学で客員教授をしたときに、高分子工学科
    の研究室をいろいろ見学したのですが、特にジェイムス・リンゼイ・ホワイト教授(1938~2009年)が自慢そうに見せてくれたのは、大きな回転成形機でした。
    これでプラスチック製大型中空部品が継目なしで作れると言っていました。日本ではあまり見かけないのですが、最近はどうなっているのでしょうね。
    尚、昔の日本の戦闘機用燃料タンクは金属製で撃たれるとすぐ火災を起こしたのですが、アメリカの戦闘機用燃料タンクは、内側がゴム張りになっていて撃たれても
    比較的長持ちしたそうです。
    3)自動車のプラスチック製バンパーは、ポリマーアロイ応用の典型例と思っています。臼杵先生の文中に出てくるウレタン製バンパーを私が初めて見たのは、
    1974年のニューヨーク・オートショーで発表されたGMのポンテアック・グランダムのバンパーでした。添付写真のように51年前とは思えないイカしたデザインで
    した。写真の車の鼻先を手で押すとゴムのように変形して、手を離すと直ぐに元に戻りビックリでした。但し、この車は、八気筒V8型で7500cc、燃費は、3km/lという
    今で言えば化け物で、1973~1974年のオイルショックのために消えてしまいました。今ではクラシックカーとして高値が付いているかも知れませんが、ウレタン
    は劣化しているでしょう。確か、リアクション・インジェクション・モールディングで作ったと聞いています。今は、廃れてしまったのでしょうね。
    4)ラングミュア・ブロジェット膜(LB膜)は、研究として一時流行りましたがその後何かに実際使用されたのでしょうか?よく調べると膜が完全で無く問題が多かったと
    聞いています。論文は無数に出たと思っていますが。
    5)3Dプリンターはとても面白い技術ですが、大量生産には向いていないようです。むしろ開発段階で試作品を作るのに威力を発揮するようです。1993年にアクロン大学に
    行ったとき、ホワイト教授から成形加工の面白いビデオテープを頂いたのですが、その中に、3Dプリンターを使ってテキサス・インスツルメント社(TI)が対レーダーミサイル
    (AGMー88HARM)を開発する際に役立った様子が入っていました。その後TIは、ミサイル部門をレイセオンに売却したそうです。その進化型は、今のウクライナ戦争で
    活躍中だそうです。アメリカは、産学軍連携で研究を進めることが多いので要注意です。東大が定年になった時に「危ないかな?」と思ってそのビデオテープは廃棄しました。
    西 敏夫
    ポンテアックグランダム.JPG. 残念、画像をコメントへup出来ません。

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