20250525. 46.クルマのリコール≠ソフトウェアのアップデート?

 寄稿文45で金属部品を樹脂に代替した例について述べた。すべてうまく行われたわけではなく中にはうまくいかなかった例もある。その例からリコールに関する私見を述べたい。
数年前にデンソー製の燃料ポンプに不具合が相次ぎ大規模リコール(回収・無償修理)に発展した。燃料ポンプの樹脂製の「インペラ(羽根車)」という部品に不具合があるため燃料を吸い上げられなくなることがあり、最悪の場合は走行中にエンストを起こす恐れがあるという。具体的にはポリフェニレンスルフィド(PPS)が使用されている製品である。通常は高温金型を使用して結晶化を充分にさせて製品にするのであるが、金型の温度が低過ぎて結晶化度が低くなり燃料を吸収して膨潤したのではないかと考えられる。ポリプロピレンなどの汎用ポリマーであれば金型を加温する必要がなく製品を成形することができるが、結晶性のエンプラではその金型温度の制御はとても重要である事例である。
昨年、家族が所有する自家用車(シエンタ)にリコールの案内があった。前輪ロアアームのボールジョイント取付部において、使用環境に対する耐久性の検討が不十分なため、降雪地域で融雪剤が頻繁にかかると腐食して亀裂が生じることがあるとのこと。塩カルで劣化の可能性があるポリアミド系(寄稿文26、受託研究2)かと思いディーラーにお聞きすると、ゴム部品としか聞いていないとのこと。開発現場にいないと詳しい情報が入らないようである。仕方なく半日をかけてディーラーに車を持参し部品を交換していただいた。
 これらは樹脂が関与するリコールであったが、材料には起因しないリコールも多くある。2010年にはプリウスのブレーキのリコールが発生した。タイヤのスリップを防ぐアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)の電子制御プログラムに不具合があった。日本だけではなく北米、欧州、その他の国でも回収・修理の措置を行ったようである。
 ソフトウェアの改良を行ったとのことであるが、このような措置はスマートフォンなどのアプリでは日常茶飯事に「アップデート」として頻繁に行われているのではないだろうか?と私は個人的にかなり違和感を覚えた。もちろんブレーキシステムは人の生命に直結する部品であるためリコールはやむを得ないと思うが、アップデートとしてスマートフォンのように気づかないうちに行ってしまえば良いのではと不謹慎ながら感じていた。逆にスマホに対してリコールという措置で回収してソフトウェアやアプリのバージョンアップを実施したとしたら今ほどの普及率は無かったようにも思う。言葉の魔力は絶大であり「リコール」、「アップデート」ではリコールの方が重大な案件に思えてしまう。
別の例で食品売り場やコンビニで体験した言葉の魔力の例である。スーパーマーケットでは夕方ごろに行くと例えばお弁当が30%割引、閉店間際では半額で売れ残りを無くす工夫をしており、私も京都に単身赴任をしていた時は近所の「新鮮激安市場」と言うお店に閉店間際に入店し、遠慮しながらも半額のお弁当を良く購入していた。家族からはそんなみっともないことはしないようにといつも言われていた。最近、名古屋に戻った際に近所の「イオンモール」に買い物に行くと、同様に割引して販売されているのであるがそこには「食品ロスにご協力いただき有難うございます」と書かれていた。これには家族も堂々と手を差し出して購入していた。同じ事をしているのであるが買い手の気持ちはまったく違うわけである。言葉の重みを感じた。
もう一点、最近の京大、東大、JSTからの研究のプレスリリースで「セルロースナノファイバーの欠陥を減らす」と言う記事があった(1)。私はそれを見た瞬間、セルロースナノファイバーは使えない材料かな、と感じてしまった。つまり欠陥と言う言葉はどうしても欠陥商品のイメージを持ってしまうからである。学術的には素晴らしい発見、発明ではあるが、ユーザーの目から見た際に躊躇してしまうわけである。話を聞いてみると処理条件によってその欠陥が発生するという事なので、このような場合は「損傷」と呼んだ方が良いかもしれないと感じた。損傷と言われればまだ修復の可能性があると感じるのではないだろうか。
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20250408/index.html
「セルロースナノファイバーの欠陥を減らす~バイオマス由来ナノ材料の用途拡大に向けて~」

Author: xs498889

1 thought on “20250525. 46.クルマのリコール≠ソフトウェアのアップデート?

  1. メール拝見しています。リコールは企業に取っては大変な問題だと思いますが、どう言う基準でやっているのでしょうね。
    事故率がどの位ならやるのか疑問です。企業の信用性に関わる問題ですので。
    最近で実際に経験したのは、以前使っていたパナソニックのレッツノートのリチウムイオンバッテリーがリコール対象になっていて、
    交換しました。特に問題は感じなかったのですが、最悪発火の危険性があるとの事でした。パナソニックに電話をしたら、「直ぐ取り出して
    冷暗所に置いて欲しい。パナソニックから新しいバッテリーを専用パックに入れて送るので、それに該当バッテリーを入れて回収する。」との
    事でした。
    又、小林製薬の紅麹問題絡みでイオンが「肉まん、餡饅セット」を売り出していて、良く買っていたのですが、それに紅麹成分が含まれていて
    リコール中とありました。当時、もう半分食べていたのですが、イオンのサービスセンターに持って行ったら回収して全額払い戻しになりました。
    深刻だったのは、2015年に起きた「東洋ゴムの免震ゴム性能偽装問題」でした。あの関係で東洋ゴムの明石工場に免震構造協会から依頼されて、何度も審査委員の一人として出張しました。
    結局150棟あまりの免震建築に使われた東洋ゴムの免震ゴム支承交換、東洋ゴム経営陣の引責辞任、東洋ゴムから東洋タイヤへの社名変更となってしまいました。交換費用は、、1000億円を越えたと聞いています。しかし、実際の地震で東洋ゴムの免震ゴムに事故が起きたという話は、今のところ聞いていません。
    パソコンのアップデートにはリコールに近い意味があったとは知りませんでしたのでこれから気を付けます。将来自動車のコンピューターが進むとアプデートが活用されるのでしょうね。
    確かにカーナビのアップデートを最近車に乗ったままでやりました。以前は、カーデイーラーまで行って数万円取られたのですが、今回は無料でした。
    最後にセルロースナノファイバーの話ですが、金属系では、「格子欠陥」という言葉を良く使うので不思議ではないような気がします。タイヤに関しても「使用済みタイヤ」と「廃棄タイヤ」では随分印象が違います。同じように「食品ロス削減」も旨い言葉ですね。
    西 敏夫

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