20250629. 50.2050年の世界

寄稿文を50回まで書くことができたので、50に因んで2050年の世界について感じていることを書いて一区切りとしたい。
 科学者は将来技術について議論することが多くある。有名な例では1901年(明治34年)1月2、3日の『報知新聞』に掲載された「百年後」つまり20世紀(1901-2000年)の予言と言う記事が面白い。羅列すると、①無線電信および電話、②遠距離の写真、③野獣の滅亡、④サハラ砂漠が野原に、⑤七日間世界一周、⑥空中軍艦・空中砲台、⑦蚊およびノミの滅亡、⑧暑さ寒さ知らず、⑨植物と電気、⑩人の声、十里に達す、⑪写真電話、⑫買い物便法、⑬電気の世界、⑭鉄道の速力、⑮市街鉄道、⑯鉄道の連絡、⑰台風を防ぐ、⑱人のからだ、⑲医術の進歩、⑳自動車の世、㉑人と獣との会話自在、㉒幼稚園の廃止、㉓電気の輸送 とある。
答え合わせをすると(Wikipediaなどのネット情報を参照)、
無線電信および電話→携帯電話での国際電話
②遠距離の写真→画像添付メール・カラーFAX
③野獣の滅亡→絶滅の危機ではあるがハズレ
④サハラ砂漠→緑化事業は行われている
⑤七日間世界一周→海外旅行の一般化
⑥空中軍艦・空中砲台→爆撃機・空中戦
⑦蚊およびノミの滅亡→衛生事業は進歩したが、害虫は滅亡していない
⑧暑さ寒さ知らず→エアコン
⑨植物と電気→ビニールハウス・品種改良・遺伝子組み換え
⑩人の声、十里に達す→電話
⑪写真電話 →テレビ電話・インターネット小型カメラ
⑫買い物便法→通信販売、地中の鉄管から瞬時に届くは無理
⑬電気の世界→石炭は無く20世紀は電気より石油
⑭鉄道の速力→電車・新幹線
⑮市街鉄道→地下鉄・高架線・モノレール
⑯鉄道の連絡→五大陸をつなぐまでではない
⑰台風を防ぐ→ハズレ
⑱人のからだ→ある程度平均身長は伸びたが、180cm以上とまでは…
⑲医術の進歩→レーザーメス・内視鏡・レントゲンは実現、むしろ内科が増えた、麻酔のおかげで痛くない
⑳自動車の世→安くはないが自動車の世の中
㉑人と獣との会話自在→(バウリンガル?)
㉒幼稚園の廃止→学歴社会にはなっている
㉓電気の輸送→長距離送電  まあまあの正答率である。
 本来ならば2100年の世界を予測しないと前述の記事には対応しないが、あまりにも近年は技術の進化が早いのでまずは2050年としてみた。
こんなものが実現しているだろうか?
・核融合:30年ほど前に常温核融合の成否が議論されたことがあるが未解決問題のようである。2050年には核融合発電が実用化されていることが期待できエネルギーとして有望視される。
・蓄電技術:電気エネルギーが大量にあっても蓄電して持ち歩くことが必須になる。大容量が必要なクルマ、住宅では全固体電池が主流になる。
・自然エネルギーの利用:クルマ(特にEV)では太陽電池が必須になる。クルマを使用している時間は平均5%(24時間のうち1時間)なので、未使用時(駐車時)に蓄電するためペロブスカイト太陽電池などが車載される。
・内燃機関:無くならなくて健在である。ただしガソリンエンジン車は少なく合成燃料やバイオ燃料に切り替わる。
・人工光合成:水素発生技術は既に確立できている。有機物はギ酸、メタノール、エタノールが量産レベルで合成できるようになる。
・原子変換:一例として鉛(Pb)から金(Au)ができるようになる(1)。さらに技術開発が進んで貴金属が安価に大量に生産でき、貴金属の概念が無くなる。
・石油化学からバイオ化学へ:ポリマー原料はすべて植物から生産できる技術が確立される。またCO2を原料とした材料が多く出回るようになる。
・AIからAGI、そしてASI主体:AIが進化し、ついに人間の能力を超えるAGI(Artificial General Intelligence:汎用型AI)、ASI(Artificial Super Intelligence:超知能AI)ができる。未知の課題を自律的に解決してくれるコンピューターが登場している。人間の役割、存在意義が問われる時代になる。寄稿文33でAIの予測を少し逸脱したところにオリジナリティーがあると述べたが少し怪しくなってきた。
最後に、今では思いつかないような画期的な材料や機構、技術が生み出される可能性は無限にある。その画期的な技術を生むためにはブートレッキング(bootlegging、密造酒づくり)のような仕組みが面白いのではないか? これは3M(スリーエム)が実施していたもので「こっそり上司の許可なく研究や商品開発を進める」ことを指している。また 15%ルールは自分のために自分の仕事時間の15%を当ててもいいというルールでありこれらにより大ヒット商品のポストイットができたとの事。研究開発の分野は上司が必ずしも正しくないわけである。常々思うのはAIに追い越されぬよう、これからの若い人のアクティビティとその素晴らしさに大いに期待している。
(1)日本経済新聞2025年6月16日版
「鉛から金」現代の錬金術成功 CERN加速器実験、大量合成は困難
という記事あり。

Author: xs498889

2 thoughts on “20250629. 50.2050年の世界

  1. 長期間に渡り、大変貴重な寄稿をご教示いただき、ありがとうございました。
    臼杵先生の研究開発の長年に至るご経験や知見の深さが非常に有益と思い、自身の振り返りも
    考えねば、と感じております。
    今後もご指導、ご鞭撻のほど、宜しくお願いいたします。

    ***************************************************
     加納 義久 

  2. メール拝見しています。50回で一区切りとの事ですが毎回貴重なエッセーでとても参考にさせて頂きました。
    また、コメントを付けさせて頂きましたが、皆さんの何かのお役に立てればと願っています。論文や学会などで
    は得られない実情も臼杵先生の文章に触発されてコメントしました。
    50回は未来予測についてですが昔の予測と現在の対比、2050年の話など興味深い回でした。
     実は、当方、2007~2009年に化学技術戦略推進機構(JCII)の研究推進委員長を任されて、2050年の化学技術予測などをやりました。
    詳細は、ラバーインダストリー2009年12月号に「JCIIの研究推進委員長を卒業して」という題で5ページほどにまとめました。
    その際、個別の技術は別として、現在の延長では無くてまず2050年に又はそれまでに想定すべき事を決めてから議論すべきとしました。
    それらは、
    ・石油資源とレアメタルの枯渇。
    ・ポスト京都議定書問題。2050年までに全世界のCO2発生量を50%削減。先進国は、80%削減。
    ・日本固有問題としての巨大地震の可能性。
    ・日本社会の超高齢化と人口減少。
    ・中国、インドの経済成長と超大国化。アメリカの地位低下及びアメリカ流市場原理主義の凋落など。
     問題が大きすぎるので、ゴム、高分子学者として我々の身の回りで努力出来ることとして、
    ・高分子ナノテクノロジーからメガテクノロジーへ。
    ・免震の科学技術推進(ISO, JIS, 原子力発電所の免震化、新技術など)。
    ・低燃費タイヤの研究開発。
    ・石油掘削技術高度化用材料開発。
    ・高分子の加工技術(日本の大学で抜けている)。
    等でした。
    16年後の今を考えるとおおよそ当たっているようです。特に、CO2に関しては、2050年のカーボンニュートラルとさらに厳しくなっています。
    巨大地震は、2011年に東北大震災という形で起きてしまいました。2050年までには多分南海トラフ巨大地震が起きるでしょう。
    アメリカの凋落を何とかしようとトランプが頑張って居ますが、今のやり方ではどうなるか怪しいでしょう。
    2009年以降で大きく変わったのは、
    ・EV化の流れ(2009年~)
    ・ドローン技術の普及(歴史的には1935年に英国、増え始めたのは2010年のフランスARドローンですが、中国が入って劇的に普及し始めたのは、2017年から)
    ・生成AI(特に2014年以降)
    などです。
     臼杵先生の2050年予測では、「核融合の平和利用」がありますが、私は一寸疑問と思っています。大学同期生でレーザー核融合をやっていた学者がいますが、
    彼に言わせるとあと30年は掛かるそうです。60年前の学生時に名古屋大学プラズマ研究所の伏見康治所長(当時)から聞いた話では、「あと40年」でした。
    材料的には、核融合炉用ブランケットが問題で連続核融合時に発生する大量の高エネルギー中性子線に長時間耐える材料をどうするかです。もっとも核融合炉は免震
    する予定ですが。その前の課題が多すぎる感じです。金の生成はとても面白いのですが、採算に合えば素晴らしいです。合成ダイアモンドみたいに成ればと期待しています。
    尤も、今の金価格は異常です。本来なら白金の方が高価な筈ですが。
     私は、科学技術の発展は良いけれど人間の心や精神がちゃんとしていないととんでもない世の中になるのでは無いかと危惧しています。既に生成AIの悪用や遺伝子操作の
    悪用が議論されていますし、詐欺メールなど日常茶飯事になってきていて困っています。原点に戻って、「自由・平等・博愛」や、「自強不息、厚徳戴物」などが大事そうです。
    西 敏夫

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