(NPO)ナノ構造ポリマー研究協会会員の皆様には、益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。
ここ数年にわたる世界規模での緊張状況が続き、とりわけ国際紛争(ウクライナ、イスラエルなど)、気候変動に伴う大災害(大幅な温度変動に伴う台風による水害や広範囲にわたる火災など)、国内でも先の石川県能登半島大地震をはじめ、多くの自然災害が発生していることは、皆さま、メディアなどで周知されているかと思います。NPO法人ナノ構造ポリマー研究協会では、2023年の元旦に発生した石川県能登半島大地震において、災害義援金を、日本赤十字社に対応させていただきました。
これまで、ナノ構造ポリマー研究協会の活動として、東日本大震災、熊本県大地震、ウクライナ国際紛争で義援金を行っており、今後も災害義援金などによる社会奉仕に努めます。
さて、2023年5月20日に開催されたナノ構造ポリマー研究協会の20周年記念イベントやニュースレターにおいて、「ナノ構造ポリマー研究協会の展望」を提案させていただきました。
すなわち、ナノ構造ポリマー研究協会のミッション・ビジョン:「高分子材料への実用を通して経済や社会に大きな影響をもたらし始めているナノ構造ポリマー技術の研究の経緯と実現への道筋とを、広く社会に共有する」の基本を振り返ることが重要である。
そのため、「過去を振り返り、現状を鑑み、未来に向けたナノ構造ポリマー研究協会のロードマップ」を作成することを提起しました。換言すれば、ロードマップによる将来の技術動向を反映したナノ構造ポリマー技術の指標は、研究協会のミッション・ビジョンと言えます。ここでは、加納の専門分野である接着・粘着の技術ロードマップの作成を視野に、現状の社会課題や将来技術を紹介させていただきます。
現在、接着剤・粘着剤は、電気自動車などを含むモビリティ、エレクトロニクス、医用、建築などをはじめ、あらゆる分野で使用されています。
最適な接着剤・粘着剤を選ぶ関連技術のシーズとして、①エポキシ、アクリル、ウレタンなどのベースポリマーの種類、②熱・光・電子線硬化システムやホットメルトなどの液状から固体へのプロセス条件、③高機能・高性能化を付与する多種の添加剤の配合をはじめ、モルフォロジー制御に資するポリマーアロイ・ブレンド・コンポジット、④接着性能(接着強度、被着体への濡れ性や硬化後の機械強度、耐候性(使用環境):耐熱・耐光・耐水性など)、⑤被着体への対応、⑥分析・解析・シミュレーションなどが挙げられます。
現状の社会動向は環境と調和した経済・社会システム(地球温暖化、自然災害)であり、そのキーワードとしてカーボンニュートラル、SDGsが挙げられています。
接着剤、粘着剤を含めたポリマー、プラスチックにおける社会課題では海洋プラスチック、マイクロプラスチックがあり、その対策として3R(リサイクル、リユース、リデュース)、効率的な回収と焼却/不法投棄への対応が進められています。接着剤・粘着剤の分野における環境対応の将来技術として、バイオマス・生分解性ポリマー系接着剤・粘着剤、硬化システムの省エネ化、易リサイクルな解体性接着技術などの高機能・高性能化の研究開発や技術が進展しています。そのため、今後、接着剤・粘着剤は多様化していくと考えられます。
その意味で、接着・粘着の技術ロードマップは、①従来:粘着・接着の高性能化として寿命・劣化、粘着機能を重視した両面テープやセロハンテープ、②現在:強粘着と易剥離の機能を両立した付箋(例:ポストイット)や半導体製造プロセス(バックグラインド、ダイシング)用粘着テープ(例:UV硬化型粘着剤)、③研究開発段階:3Rで環境対応のバイオマス接着剤、解体性接着剤や自己剥離粘着剤、④2050年:SDGs、カーボンニュートラルに根差す革新的粘・接着の技術深化(例:‘ヤモリ’のナノ構造を利用した分子間力による接着剤・粘着剤フリーの接着)の社会に展開していくことを期待しています。
近年、マテリアルインフォマティクス、人工知能(AI)、接着剤の硬化プロセス条件の効率化、及びバイオマスによる新規接着剤・粘着剤、解体性接着技術などの研究が進展しています。
将来的に、環境に優しさを要望とされる接着剤・粘着剤が、瞬時に選択できる時代となり、カーボンニュートラル、SDGs実現への一助になることを期待しています
今後、革新的粘・接着技術ロードマップを作成し、ナノ構造ポリマー研究協会の発展に繋げていきます。最後に、会員の皆様には、ナノ構造ポリマー研究協会の活動にご賛同いただき、活発な意見交換&ネットワーク構築の場になることを祈念し、2024年度における代表理事の挨拶とさせていただきます。